長崎家庭裁判所 昭和40年(家)699号 審判 1965年9月11日
申立人 小松良子(仮名)
相手方 山本ナミ(仮名)
遺言者 大木チヨ(仮名)
主文
本件遺言執行者解任の申立はこれを却下する。
遺言者亡大木チヨの遺言執行者に
本籍 長崎市○○○町一八番地
住所 同所六番一六号
小松清
を選任する。
理由
申立人は「相手方が遺言者亡大木チヨの遺言執行者たることを解任する。遺言者亡大木チヨの遺言執行者に小松清を選任する。」との審判を求め、その申立理由の要旨は「申立人は昭和三八年五月二八日公証人中野和夫作成第一四八三五九号遺言公正証書により遺言者大木チヨ(昭和四〇年七月一一日死亡)所有の宅地、建物の遺贈を受けたもの、また、相手方は右公正証書により遺言執行者に指定されたものであるが、相手方は昭和四〇年七月一八日頃申立人に対し、書面並びに口頭をもつて、遺言執行者に就職することを承諾した事実はなく、またその意思もないので、遺言執行者に就職することを拒否する旨通告するとともに、同日二五日頃遺言者の相続人大木吉男に対しても口頭でその旨通告した。よつて、相手方が遺言者亡大木チヨの遺言執行者たることを解任し、新たに申立人の実兄小松清を遺言執行者に選任する旨の審判を求めるため、この申立に及んだ。」というにある。
当庁調査官平野英二の事実調査の結果、並びに当裁判所の相手方に対する審問の結果によれば、申立人主張の事実はすべてこれを認めることができる。
思うに、民法第一〇一九条の解任の理由たる「遺言執行者がその任務を怠つた時、その他正当な事由がある時」とは、遺言執行者が一且その就職を承諾しながら、その義務に違反して任務を怠り、その他長期疾病、遠地移転等により、その任務に適しない事情が存する時をいうものと解するところ、前記認定の事実によれば、相手方は遺言者亡大木チヨより遺言執行者に指定されながら、終始その就職を拒否し続けていることが明らかであるから、結局右は民法一〇一〇条にいわゆる「遺言執行者がないとき」に該当するものというべく、しかして家庭裁判所は遺言者によつて指定された遺言執行者を解任するまでもなく、利害関係人の請求によつて直ちに遺言執行者を選任し得るものと考える。
そして、前記調査官の調査の結果によれば、申立人の推薦する主文掲記の申立人の実兄小松清には遺言執行者の欠格事由がなく、また同人は遺言執行者となることを承諾している事実が認められ、しかも、本件が遺言執行者の選任を必要とする場合に該ることはいうまでもないから、遺言者亡大木チヨの遺言執行者には右小松清を選任するのを相当と認める。
すると、申立人の本件遺言執行者解任の申立はその必要がないからこれを却下すべきであるが、新たに遺言執行者の選任を求める申立は相当であるからこれを認容すべきものとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 鍬守正一)